前回睡眠についての記事を書いたときに「睡眠退行」という初めて聞くワードがありました。そこでこの記事では、睡眠退行の原因・症状・月齢別の特徴や効果的な対策方法、見分け方と相談先までをまとめてみました。正しい知識を得て、不安を解消しましょう。

1. 睡眠退行の基礎知識

1.1 睡眠退行の意味と特徴

「睡眠退行」とは、これまで安定していた赤ちゃんや幼児の睡眠が突如として不安定になり、夜間に何度も目を覚ましたり寝つきが悪くなったりと、一時的に“後退”したような状態を指す現象です。多くの場合、発達段階のひとつとして現れ、一過性であることが特徴です。例えば、日常的にしっかりと眠れていたお子さまが、ある日を境に突然夜泣きが激しくなる、日中の昼寝が短くなるといった変化が見られる場合、「睡眠退行」を疑うケースが増えています。

この現象は、単なる寝つきの悪さや一時的な夜泣きとは異なり、脳の発達や心身の成長、生活リズムの変化などさまざまな要因が重なって引き起こされるものです。妊娠中や産後の情報サイト、専門家による子どもの睡眠指導でも、しばしば取り上げられるテーマとなっています。

1.2 赤ちゃんや幼児に多い時期

睡眠退行が特に起こりやすい時期は、生後4ヶ月頃・生後8ヶ月から10ヶ月頃・1歳から2歳頃の三つのタイミングであると言われています。これらの時期はいずれも、運動機能や言葉の発達、脳のシナプス形成が活発になる時期であり、子ども自身の世界認識や生活リズムが大きく変化します。

月齢・年齢主な発達のポイント睡眠退行の例
生後4ヶ月前後昼夜の区別ができ始め、脳波パターンが乳児型へ変化夜中に頻繁に起きる、寝かしつけに時間がかかる
生後8〜10ヶ月前後はいはい、つかまり立ち、分離不安の始まり寝る前に泣く、親から離れたがらない
1〜2歳頃言語や自立心の発達、活動量増加昼寝が減る、夜中に起きて遊びたがる

もちろんすべての子どもに同じように現れるわけではありませんが、多くの家庭でこの時期に睡眠リズムの乱れや夜間のぐずりが目立つ傾向があります。

1.3 夜泣きや入眠困難との違い

睡眠退行とよく混同されがちなものに「夜泣き」や「入眠困難」がありますが、睡眠退行は“発達や環境の影響によって一時的かつ周期的に現れるもの”であるのが大きな特徴です。

用語定義・特徴主な発生時期
睡眠退行発達段階の変化などで一時的に睡眠が不安定になる現象4ヶ月・8〜10ヶ月・1〜2歳など発達の節目
夜泣き夜間に突然泣き出し、原因が特定しにくい状態生後半年以降〜2歳頃
入眠困難なかなか寝つけない・寝るのに時間がかかる乳幼児〜学童

入眠困難や夜泣きも睡眠退行の一症状として現れることがありますが、「これまでできていた睡眠パターンが一時的に乱れる(=退行する)」点が、睡眠退行特有のサインとして専門家も着目しています。

こうした基礎知識を踏まえて、睡眠退行を正しく理解し、年齢や発達段階に応じた適切な対応を考えることが重要です。

2. 睡眠退行が起こる主な原因

2.1 成長段階と脳の発達

睡眠退行が起こる大きな要因のひとつが、赤ちゃんや幼児の成長段階にともなう脳の発達です。生後数か月ごとに訪れる急速な脳の発達や、運動機能・知的能力の獲得は、睡眠リズムに変化をもたらします。例えば、生後4ヶ月頃には睡眠サイクルが大人に近づく「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の周期がはっきりしてきて、夜中に目覚めやすくなります。生後8〜10ヶ月や1〜2歳の時期も、新しい技能の習得(ハイハイや立つ、言葉の理解)をきっかけとして一時的な眠りの乱れが起こりやすくなります。

月齢・年齢主な発達段階と影響
生後4ヶ月前後睡眠周期(ノンレム・レム)が明確化し、中途覚醒が増加
生後8〜10ヶ月分離不安や人見知りが始まり、精神的に不安定に
1歳〜2歳歩行や言語獲得など大きな発達、自己主張が強くなる

2.2 生活リズムと環境要因

睡眠退行には、普段の生活リズムの乱れや環境の変化が影響を及ぼすケースも多いです。昼寝や就寝時刻の変動、家族の生活音や光の影響、保育園や幼稚園への通園開始、引っ越しなど生活環境が変わるタイミングに、赤ちゃん・幼児は敏感に反応します。また、スマートフォンやテレビなどのブルーライトの暴露や寝室の温度・湿度の不快感も寝つきを悪くしたり、睡眠の質の低下につながることがあります。家族の帰宅や兄弟の泣き声なども、一時的に安定していた睡眠を乱す要因となります。

2.3 個人差や遺伝的要素

睡眠退行の時期や強さには個人差や遺伝的な背景も大きく関わります。生まれつき眠りが浅めだったり、環境の変化に敏感な性格のお子さんは、同じ時期に寝ぐずりや夜間覚醒が強く出ることがあります。また、夜型の家庭環境や、両親が幼少期に睡眠の課題を抱えていた場合、ややリスクが高まる傾向も指摘されています。兄弟や親子間で睡眠パターンの類似が見られることが多いのも、こうした要素が関係しています。

3. 月齢・年齢別にみる睡眠退行の特徴

睡眠退行は赤ちゃんや幼児の成長過程で特に起こりやすい時期が存在します。以下では、日本国内で多く報告されている代表的な月齢・年齢ごとの睡眠退行の特徴について、それぞれ詳しく解説します。

月齢・年齢主な特徴よく見られる行動・変化
生後4ヶ月頃初めての大きな睡眠パターン変化が起きる時期夜間の頻回な覚醒、寝かしつけに時間がかかる、昼夜の区別がつきにくくなる
生後8〜10ヶ月頃脳と身体の急速な発達が睡眠に影響しやすい再び夜間の目覚めが増える、人見知り・後追い行動が強くなる、昼寝サイクルの乱れ
1歳〜2歳頃自我の芽生えや言葉の発達による影響「いやいや期」との関連、寝る前の抵抗やぐずり、昼寝の減少、悪夢を訴えることがある

3.1 生後4ヶ月頃の特徴

生後4ヶ月頃は、赤ちゃんの睡眠サイクルが「新生児型」から「乳児型」へと大きく変化する転換期です。この時期、夜中にまとまって眠れていた赤ちゃんが突然何度も起きる、寝ぐずりが激しくなるなどの変化が現れます。また、外界の刺激に反応しやすくなり、寝つきが悪くなる場合もあります。

保護者の間では「4ヶ月の睡眠退行」とも呼ばれ、日本小児科学会や日本子ども健康協会でもこの時期の一時的な睡眠トラブルがしばしば指摘されています。昼夜のリズムが安定し始める一方、脳の発達により睡眠の浅いサイクルが増えるため、頻回な夜泣きにもつながります。

3.2 生後8ヶ月〜10ヶ月頃の特徴

生後8〜10ヶ月になると、ハイハイやつかまり立ちができるようになるなど、運動能力と好奇心が急速に発達する時期に入ります。この時期は第二の睡眠退行とも言われ、再び夜間の目覚めが増えるケースが多く見られます。

また、分離不安や人見知り、後追いなどの心理的な成長が加わり、寝ている途中で目覚めるたびに保護者を求めて泣き出すことも少なくありません。昼寝の間隔や回数が乱れやすくなるのも、この時期特有の特徴です。

3.3 1歳〜2歳頃の睡眠退行

1〜2歳頃は「イヤイヤ期」の始まりと重なり、意思が出てきて自分で何かをしたいという気持ちが強くなるため、寝る前に抵抗したり、ベッドから出たがるなどの行動が見られます。日本小児保健協会も、この時期の「自己主張にともなう生活リズムの乱れ」による入眠困難や夜間覚醒の頻度増加を指摘しています。

また、言葉の発達が進むことで「おばけがこわい」「暗いのがいや」など、情緒的要因による夜間の不安や悪夢の訴えも現れやすくなります。一方、徐々に昼寝が1回になり、昼寝時間も短くなり始めるのがこの時期の特徴です。

4. 睡眠退行の主な症状

睡眠退行が起こると、これまで安定していた赤ちゃんや幼児の睡眠に大きな変化が現れ、多くの保護者が戸惑います。ここでは代表的な症状について、分かりやすく整理しながら解説します。

症状具体的な様子・ポイント
夜中に何度も起きる夜間の頻回覚醒が増え、まとまった睡眠がとれなくなることが多くなります。今まで長時間眠れていたのに、急に何度も泣いたり目を覚ましたりします。トントンしたり抱っこしたりしても再入眠が難しくなるのが特徴です。
昼寝が短くなる・減るこれまで決まった時間しっかり寝ていた昼寝が、急に短くなったり、全く寝なくなったりするケースが見られます。眠りが浅くなり、布団におろすと目覚めてしまうのも典型的です。
寝かしつけの変化寝かしつけに時間がかかる・嫌がる・ぐずるなど、以前とは異なる行動が目立つようになります。今まで自分で寝られた子も、急に抱っこや授乳、添い寝を強く求めるようになることがあります。
入眠までのぐずりや不安傾向眠る前に泣き叫ぶ、怖がる、親を探す行動が増える場合もあります。特に知恵がつき始める時期は分離不安も重なり、保護者から離れることを極端に嫌がることが特徴的です。
起床時の機嫌の悪さ・日中の眠気夜間の睡眠不足や質の低下が影響し、朝起きた時に不機嫌だったり、日中ぼんやりしている状態が続くこともみられます。お昼ごろからぐずりやすくなり、生活リズム全体に乱れが出ることが少なくありません。

4.1 夜中に何度も起きる

「夜間覚醒」が最も代表的な症状です。生後数ヶ月で長時間まとめて眠れていたのに、特定の時期に、急に頻回に起きて泣いたりぐずったりするようになります。授乳や抱っこなど、保護者への依存が強まる傾向があるため、家族の睡眠にも影響が広がります。

4.2 昼寝が短くなる・減る

睡眠退行が見られると、昼間の睡眠にも変化が現れます。眠りが浅くなり、寝かしつけるとすぐに目を覚ます、寝る回数が減る、時間が短くなるなど、これまでのリズムが保てなくなってしまいます。

4.3 寝かしつけの変化

今までスムーズだった寝かしつけが突然難しく感じるのも、睡眠退行の特徴です。布団に行くのを嫌がる、入眠時に泣いて抵抗する、親の姿が見えないと激しく不安がるなどの行動が見られます。また、寝かしつけにかかる時間も増える傾向にあります。

4.3.1 入眠直前の不機嫌・激しいぐずり

特に入眠前に強いぐずりや泣きが目立つ場合もあります。眠いはずなのに目が冴えてしまったり、情緒が不安定になることも多いため、保護者は十分な対応が求められます。

4.4 その他のよくみられる症状

夜中や明け方の「早朝覚醒」、それにより日中の機嫌が悪く活力が落ちる、食事量が減るといった、生活全体にわたる影響がしばしば見受けられます。また、過度の甘えや不安行動など、精神面にも変化が現れることがあるため注意が必要です。

5. 睡眠退行への対策と乗り越え方

5.1 基本的な生活リズムの整え方

睡眠退行を乗り越えるためには、日々の生活リズムを安定させることが極めて重要です。日中は太陽の光をしっかり浴びさせて体内時計を整え、毎日同じ時間に起床し、同じ時間に寝かしつけるよう心がけましょう。

また、朝起きたらカーテンを開けて自然光を浴びせ、昼寝の時間や食事の時間もできるだけ一定にします。これにより、赤ちゃんや幼児自身が「今は昼」「今は夜」と認識できるようになり、睡眠のリズムが安定しやすくなります。

5.2 安心できる寝環境の作り方

赤ちゃん・幼児が安心して眠れる環境づくりも大切です。室内の騒音や明るさ、気温、寝具など、快適な睡眠を促す要素を見直しましょう。

5.2.1 適切な寝具や室温調整

ポイント具体的な対策
寝具の選び方通気性・吸湿性の良いシーツや、成長に合わせた寝返りしやすい敷布団を選ぶ。
赤ちゃん専用のシンプルな寝具(ぬいぐるみや柔らかすぎる枕は避ける)を使用する。
室温・湿度管理夏は26~28℃、冬は20~23℃を目安にし、湿度は40~60%に調整する。
加湿器やエアコンを適切に利用し、寝室の換気もこまめに行う。
照明・音就寝前は明るすぎない照明で、入眠時はほの暗いライトに切り替え、テレビの音や家族の話し声に注意する。

5.2.2 入眠儀式の導入

毎晩同じ流れの「入眠儀式」をつくることが、安心感につながり、睡眠への切り替えをスムーズにします。

入眠儀式の具体例意図・効果
絵本の読み聞かせ静かな時間を作り、親子のスキンシップで安心感を与える
やさしい音楽や子守唄リラックス効果で入眠しやすくなる
お気に入りのガーゼやタオルを持たせるお守りとなるアイテムで心の安定を促進する
「おやすみ」の決まった挨拶寝る前の合図として日々繰り返し行うことで習慣化する

5.3 赤ちゃん・幼児への接し方と心のケア

睡眠退行の時期は、子ども自身も不安定になりがちです。泣いたり、ぐずったりする時は、無理に「一人で寝なさい」とせず、優しく言葉をかけたり、抱きしめたりして安心させることが大切です。

寝かしつけ中に、保護者がイライラしたり急かしたりすると、赤ちゃんも感情が伝わってしまい、さらに眠りにくくなる恐れがあります。子どもに寄り添い、成長過程のひとつとして温かく見守る意識を持ちましょう。

5.4 困ったときの相談先とサポート機関

睡眠退行が長引く、もしくは極端に睡眠不足が続く場合や、日中のぐずりが激しく生活に支障が出る場合は、専門家へ相談しましょう。

相談先相談内容・特徴
小児科睡眠障害や身体的な不調の有無、発達の段階など、医学的な面からアドバイスを受ける
保健センター育児相談や集団健診の場で、同じ悩みを持つ保護者と情報交換ができる
助産師・看護師心のケアや子育て全般、日常生活の具体的アドバイス
育児支援センター・児童館地域でのサポート体制を利用し、子育ての孤立感を防ぐ
専門の睡眠外来(日本睡眠学会認定医療機関 など)専門的な睡眠診断やトレーニングが必要な場合に活用

一人で悩まず、行政機関や周囲の協力を積極的に利用することも大切です。

6. 睡眠退行と向き合う保護者の注意点

6.1 イライラや不安を抱えないために

睡眠退行の時期は、育児に携わる保護者にとって大きなストレスや焦りを感じやすい時期です。子どもの夜泣きや寝かしつけの変化が続くと、肉体的・精神的な負担が積み重なりやすくなります。「なぜ自分の子だけ眠らないのか」「自分の育て方が悪いのか」と自分を責める必要はありません。睡眠退行は成長の一過程で、多くの家庭で見られるごく自然な現象です。イライラや不安に押しつぶされそうになったときは、パートナーや家族と協力し、できる範囲でお互いに休息を取りましょう。「完璧を目指さなくても良い」と気持ちを切り替え、余裕のある時はできるだけ自分の時間を作ることも大切です。

また、周囲の先輩ママや保健師など、育児経験者と悩みを共有することで心が軽くなることもあります。SNSやオンラインコミュニティなど、似た経験を持つ人との交流も励みになるでしょう。

注意点具体的な対策例
自分を責めない家庭や子どもによって睡眠リズムはさまざま。周囲と比較せず受け止めましょう。
休息を確保する眠れる時に短時間でも休息し、家事や育児を分担して負担を減らす。
ストレス発散を心がける趣味やリラックスできる時間を意識的に作る。散歩や軽運動もおすすめ。
家族やパートナーと協力する役割分担や交代制で夜間の対応をする、協力して乗り切る。

6.2 睡眠障害との見分け方と受診目安

睡眠退行は一時的な現象であることが多いですが、「極端に寝つきが悪く、長期間にわたり改善が見られない」「極端な夜泣きや、日中の機嫌不良や発達の遅れがみられる」といった場合は、睡眠障害や他の健康上の問題の可能性も否定できません。どこまでが「一時的な退行」で、どこからが医療機関の受診が必要なのか、判断に迷う場面もあるでしょう。

次のような状態が続く場合は、小児科やかかりつけの医療機関、または地域の子育て支援センターに相談しましょう。

気になる症状具体的な受診・相談目安
2週間以上にわたり睡眠問題が続く毎日のように夜泣きや入眠困難が続き、保護者自身の心身にも影響が及ぶ場合
日中の著しい元気消失や食欲不振睡眠不足による体調不良、意識低下、ケガなどがみられる場合
発達に関する心配言葉の遅れ、運動発達の遅れ、感情表現の乏しさなどが重なっている場合
保護者の心身不調強いストレスや睡眠不足により、日常生活に支障がでている場合

「困ったときは誰かにサポートを求める」ことは、育児においてとても大切です。かかりつけの小児科や自治体の保健センター、全国の子育てひろばなどでも相談を受け付けていますので、一人で抱え込まず活用しましょう。

7. まとめ

睡眠退行は、赤ちゃんの心や体が大きく成長しているサインでもあります。わが子ももうすぐ4か月になるので、起きる現象かもしれません。せっかく夜まとまって寝るようになってくれたんですけどね。でも、赤ちゃんが新しい世界に適応しようとがんばっていると証拠だと思いますので、できるだけ普段通りの生活リズムを保ち、安心感を与えるようにしてあげたいと思います。